ブレイク・スナイダーの脚本術 その2

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ブレイク・スナイダーの10ジャンルとは

ブレイク・スナイダーの10ジャンル

スナイダーは映画を10種類だと主張します。

家のなかのモンスター

基本ルールは単純。まず家は逃げ場のない空間であること。沿岸沿いの町、宇宙船内、恐竜の走り回る未来のディズニーランド、もしくは家庭。そこで何か(犯罪、実験の失敗など)が起き(大抵は人間の貪欲さが原因)、結果、モンスターが誕生。

モンスターは罪を犯した者に復讐を実行。罪に気付いた者は大目に見る。それ以外の人間はとにかく逃げ、隠れる。これが基本の流れで、脚本家はモンスターにどんな新鮮味、捻りを加えられるかが腕の見せ所です。

家のなかのモンスターの基本構成要素は家とモンスターの二つ。ここにモンスターを殺したがっている人間を加えると、原始人にも分かる話になります。「危ない!・・・奴に食われるな!」という誰にでも分かる単純で原始的なルールです。

例「ジョーズ」「エクソシスト」「エイリアン」「ジュラシック・パーク」

金の羊毛

金の羊毛とはギリシャ神話に由来する。英雄イアソンとアルゴ船隊員がコルキスからやっとの思いで盗みだした金の羊毛のこと。

主人公は何かを求めて旅に出るが、最終的に発見するものは別のもの=自分自身というストーリー。欠かせない展開が主人公が旅の途中で人々と出会い、多くの経験をすること。それらは主人公の成長させる要素であり、最後の成長の完成(金の羊毛)への階段になります。

重要なのは主人公が進んだ距離ではなく変化であり、変化に観客はストーリーの進捗を感じます。最初に重要と思えたものより、様々な出会いや経験による変化から、最終的に個人が何かを発見することの方に意味がある。

例「オズの魔法使」「大災難 P.T.A」「スター・ウォーズ」「ロード・トリップ」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」

魔法のランプ

魔法のランプはアラジンと魔法のランプのこと。ランプの魔人が出てきて何でも願いを叶えてくれる。誰もが持つ願望でありだからこそ沢山の作品が作られヒットする。魔法のランプは魔法のアイテム、恋の薬、不思議な生物、強運や奇跡など。

魔法のランプは、魔法でどん底の主人公が絶頂に、絶頂の主人公がどん底に落ちる二パターンがある。

パターン1。主人公はシンデレラよろしく酷い扱いを受けており、だからこそ観客は主人公の願いが叶い、幸せになってくれることを願う。しかし、どんなに哀れな主人公でも大成功されると鼻白む。そこで主人公は最終的には成功を否定し、普通の人間(つまり観客と同じ人間)でいるのが一番だと気付くようになっている。つまり一番大切なのは道徳に適った行いをすることだ、という教訓が示される。

パターン2。主人公は色々なやましいことで幸せの絶頂にいる(と思っている)。ある時、魔法のランプの影響でやましいことが出来なくなり何もかも上手くいかない。主人公は変わらざるを得なくなり、正攻法で奮闘する。そうして変わったことで本当に大事なものとは何かに気付き、最後には手に入れる。この場合、主人公は懲らしめられるべき人間だが、最後に多少の救いが必要なので、ストーリー中に多少救う価値がある人間であることを示す必要がある。

どちらのパターンでも主人公は魔法にかかり、変化し、最後に勝利を収める点は同じです。

例「ブルース・オールマイティ」「ハービー 機械じかけのキューピッド」「ラブ・ポーション No.9」「ライアーライアー」

難題に直面した平凡な奴

「どこにでもいそうな奴が、とんでもない状況に巻き込まれる」が難題に直面した平凡な奴です。何でもない平凡なはずだった一日が、突如とんでもない一日になってしまいます。観客は大抵自分を普通の人間と思っており、同類の主人公がとんでもない状況に追い込まれると同情してしまう。

難題に直面した平凡な奴の構成要素は二つ。主人公が観客と同じ普通の人間だということ、その普通の人間が勇気を振り絞り解決しなければならない難題に直面したこと。この二つが組み合わさるとミスマッチな状況が生まれる。

難題に直面した平凡な奴を上手く展開するには「大問題」と「とにかく悪い奴」が必要。悪役が悪ければ悪いほど、立ち向かう主人公は輝きを増し、行動が勇気あるものに映る。そのため悪役は徹底的に悪くする。変にマイルドな悪役にしてしまうと失敗します。

例「ダイ・ハード」「シンドラーのリスト」「ターミネーター」

人生の節目

主人公が直面する辛く苦しい経験は、人生という名の力によることが多い。人生には目に見えない、理解し難い問題が襲ってくる時がある。それはアルコールや薬物中毒、思春期、中年の危機、老い、失恋、愛する者の死であったりする。主人公はこれら難題をくぐり抜け解決策を見出す。

流れとしては、難題が主人公に忍び寄り、徐々に顕在化する。主人公はその正体に気付き、受け入れることで最後に勝利を収める。

例「失われた週末」「酒と薔薇の日々」「28DAYS」「男が女を愛するとき」

バディとの友情

最初、バティはお互いを嫌っているが、旅をしていくうちに相手の存在が必要で、二人揃って初めて自分達が完成すると気付く。しかし、物語終盤に二人は喧嘩、仲違いし別れ別れになる。この別れは偽物で互いにエゴを捨て仲良くするしかないと自覚するための儀式にすぎない。

スナイダーはバディ物はどちらかが変化を担当し、もう一方はそれを刺激する役どころが多い。バティ物は実態はラブストーリーであり、男同士であれ女同士であれ片方にスカートを履かせたもの。バティ物がヒットするのは「僕と親友」のストーリーには誰でも共感するからだと言います。

例「明日に向かって撃て!」「ウェインズ・ワールド」「48時間」

なぜやったのか?

「金の羊毛」と違い「なぜやったのか?」は主人公の変化を描くものではない。犯罪が事件として明るみに出た時、その背後にある想像すらできなかった人間の心性が暴かれる。

このジャンルには共通項があり、観客を人間の心の闇に連れて行き、物語中の探偵が観客の代わりに謎を解くかに見えるが、真相を突き止めるのは観客自身だということ。観客は探偵が集めた情報をもとに自分で真相を明らかにし、意外な結末に衝撃を受ける。

例「市民ケーン」「チャイナタウン」「大統領の陰謀」「ミスティック・リバー」

バカの勝利

必要な要素は「バカで間抜けで無能、誰も成功するとは思わない奴」「バカが抵抗し反撃する体制または組織」。背が低く、間抜けで誰にも相手にされないが、運と勇気を持ちどんなに形勢が悪くても決して諦めない特異な才能で最後に勝利する。

バカに対し強力な権力を持つ悪者(体制側)がおり、その体制側をバカが右往左往させるのを見て観客は面白がる。権力や権力の象徴、金銭的な大成功、何かしらの文化や過度の崇拝と自惚れ、こうしたものをバカは徹底的におちょくりコケにする。

多くの人は自分の人生を不遇だと否定的に捉えており、バカはその誇張された象徴です。そのバカが権力者に勝利することで自分が勝利したような快感を味わう。

例「デーヴ」「チャンス」「アマデウス」「フォレスト・ガンプ/一期一会」

組織のなかで

集団は多数派の目的達成のため、少数派は犠牲になる。集団や組織、施設、ファミリーなど、主人公は所属する組織に誇りを感じる一方、組織の一員として生きるため自分らしさ、自己同一性を失う問題も抱え葛藤する。「組織のなかで」は個人より集団を有線することの是非を描きます。

このジャンルは新しく組織に入ってきた新人の視点で語られることが多い。なぜなら観客がこの新人と同じ立場であり、組織の回り方、しきたり、専門用語など、新人が疑問を抱え質問、調査することが観客への説明になるからです。そして次第に組織の腐敗が暴かれていく。

例「カッコーの巣の上で」「アメリカン・ビューティ」「M★A★S★H★マッシュ」「ゴッド・ファーザー」

スーパーヒーロー

「スーパーヒーロー」は「難題に直面した平凡な奴」の対極にあり、正反対の定義が当てはまる。超人的能力を持つ主人公がありきたりで平凡な状況に置かれる。ティーンエイジャー向けのコミックでよく見られるのは、彼らが新人類であり既存の価値観に馴染めず、それがスーパーヒーローの苦悩と重なるからです。

スーパーヒーロー物は周囲の人間たちの心の狭さ、無理解により苦しむ。人と違うとはどんなことか、独創的な思考、素晴らしい能力を妬む凡人と向き合わねばならないとはどういうことかを、観客が共感できるように描く。そしてどんな人でも、スーパーヒーローでなくてもそういった経験はあるものです。

観客はスーパーヒーローの周囲から誤解されたり、理解されない苦しみに共感する。スーパーヒーロー物がヒットするのは、その超人的能力に観客は想像力を掻き立てられ、彼らの抱える現実の辛さや苦しみにも共感する絶妙なバランスが取れているからです。

ちなみに、スーパーヒーロー物の続編が失敗するのは、一作目で主人公の苦悩に焦点を当て観客の共感を誘ったのに、続編で忘れるからだとスナイダーは指摘します。

例「グラディエーター」「ビューティフル・マインド」